ネット上に「ケイ父」というハンドルネームでブログ記事を書いておられる方が、CAMSは似非科学であると断じ、その上で当機構の姿勢を批判しておられますので、そのことについて、この場を借りてご回答させて頂きます。
1.
この方のブログ記事のうち「妥当なIQの認定には『標準化』がなければならず、その為には膨大な数のサンプルをベースとした長年にわたる検証が必要である」という一般論の部分については全くその通りであり、我々には全く何の異論もありません。問題は「まさにそれ故に、現時点では、高域(ハイレンジ)IQを、偏差値方式に基づいて正確に測定する方法はない」という厳しい現実です。この方もご指摘されているように、現時点で日本国外に存在する幾つかの「ハイレンジIQテスト」も、「同好の士」が一つのルールの上で競い合うという種類のものしかありません。学術的にも、膨大なサンプル量を必要とすることから、今後何十年もの時間をかけても、完全に科学的な「標準化された偏差値方式による高域IQ」を測定することは不可能かもしれません。
2.
しかし、ここでこのブログの筆者や同様の疑念を持っておられる方にご理解していただきたいのは、何故我々がこの時期にこのような財団を立ち上げ、とりあえずはCAMSという方式を使って、社会の片隅に埋もれているかもしれない「高域IQ者(と思しき人達)」を発見していこうと考えたのかということです。それは、この国には長らくギフテッド教育という制度が存在しなかったことにも起因してか、研究開発の最先端にいる人達の中に「飛躍した発想に基づく特異な推論能力を持つ人」が著しく不足しているという事態に憂慮したが故です。我々が早急に見つけ出したいのは、そういう適性を持った人達であり、とりあえずCAMSで測定したIQは、その為の重要な「ヒント」を提供してくれると思っています。
(従って、財団による実際の支援活動は、CAMSによって認定されたIQの数値が145であっても155であっても、大きく変わるものではありません。対象を絞らねばあまりに非効率になるので、一定の数値がクリアされていることは必要ですが、職場や研修の場を紹介するにあたっては、IQの数値の些細な違いよりも、むしろその人達の性格特性や興味の対象の方が重視されるでしょう。)
3.
このブログの筆者は「それならば、財団は支援活動の方から始めるべきであり、CAMSによるIQ検査などにかまけるべきではない」という趣旨の事もおっしゃっていますが、失礼ながら、それは「現実の仕事の進め方」をご理解しておられない方の考えです。 出現率1/50(IQ131sd15程度) で足切りしている現在のMENSA会員全てを対象に考えていては、我々の仕事は闇夜に鉄砲を撃つ様なものになってしまいます。どんな仕事であっても、実際に目標を定めて、何らかの結果を出そうとすれば、その為の方策の決定が真っ先になされなければなりませんが、その方策の内容についいては、初めから完全性を求めるのではなく、今すぐ入手できるあらゆる手がかりを重視して集積し、得られた多くのヒントと経験値の相関性を研究しながら、徐々に効率を高めていくのが正道なのです。
4.
CAMSのプレテストに参加していただいた支援者の方々は230人に過ぎず、第一回の検査に参加していただける人数も取り敢えずは100人以下を想定していますが、年間を通じては数千人規模の被検者を確保することを想定しており、これによりサンプル数も増大するので、CAMSの測定精度も上がっていくでしょう。仕事も研究も、とにかく始めなければ、何も起こりません。評論家はそれで良いかもしれませんが、不遇をかこっている個々の高IQの人達や、諸外国に対する技術競争力の低下に悩む企業は、それでは救われません。
(CAMSはこの様に長期間をかけて進化していくものでありますが、それでは早い時期に受検して頂いた方が不利を被るかといえば、全くその様なことはなく、むしろ逆です。一旦受けていただいた検査の結果が持つ価値は不変ですから、将来仮にその評価に上方修正や下方修正があったとしても、それは認定数値上だけのことであり、支援の機会は早い時期に得られた方が有利です。)
5.
最後に、細かいことですが、このブログの筆者の方に指摘されたいくつかの点につき、若干補足説明します。今回行ったことは、基本的に、CAMS のスコア (IRT のθ)と Cattell-CFIT Scale3 得点の間の「対応付け」です。先に掲載した前川先生の文書では「等化」という言葉が使われていましたが、正確には「対応付け」という言葉を使った方が適切でしょう。 何れにせよ「独自のノルムを用いた標準化されたテスト」を作成したもの ではありません。また、CAMS と Cattell-CFIT Scale3 の相関係数が低いのは、Cattell-CFIT Scale3 の高得点者が少なかったことが原因の一つですが、これもサンプル数が限られた状況下ではやむを得ないことと考えています。
(「それなら、もっとサンプル数を多くしてから全ての仕事を始めれば良いじゃあないか」というご意見については、前述した様に、我々の目的意識の上からは受け入れがたいご提案です。)
6.
CAMS が測っている構成概念は「独自の行列推理の項目が測っている知能の一側面」であり、「このような問題形式以外を用いても高次の認知機能が測れる」ことは申すまでもありません。我々は日本を良い国に、強い国にするためにこの財団を作ったのですから、我々の目的にかなうより良い提案があれば、いつでも、誰からでも、喜んで受け入れる用意があります。重要なことは「危機感」と「目的意識」の共有であり、目的を達成するための手段については、我々は何のこだわりも持っておりません。もし「ケイ父」さんにご興味があるなら、我々はいつでも実際にお目にかかって、いろいろ議論させて頂きたいと思っています。
(因みに、私自身も含め、当財団の理事、監事、評議員に対して支払われる年間報酬は、車代にも満たない微々たるレベルです。執行役員や職員に対する給与も極めて低額です。国からの支援も現状では一銭も頂いておらず、関係者全員が、日本を少しでも良い国にするために、犠牲を顧みず働いているのが現状です。)
以上 / 松本徹三
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